パリ・サンジェルマンの守備はといえば、前線から最終ラインまでをコンパクトにし、相手ボールホルダーを自由にせず、全員がスペースを潰し、なおかつパスコースを切る。バイエルン・ミュンヘンに攻撃でリズムを作らせないために、ルールが徹底されていた。今大会、テレビやモニター前の視聴者を何度も沸かせたセルジュ・ニャブリも、ついにファンタジーを解き放つことはできなかった。
そしてこれは、バイエルンも同じ。スペースを潰し、相手のパスコースを消す。なおかつ、ネガティブトランジションでは即時奪還を目指し、相手が保持しようとする場面では、ロベルト・レヴァンドフスキやトーマス・ミュラーが前線から戻って守備をする。いつも通りといえばいつも通りの光景が、リスボンでも見られた。
バイエルンの選手は、ポジションと個性によって与えられたタスクをこなした。それはまるで精密機械さながらであり、バイエルンが両翼を同じタイミングで交代したことも、部品交換のようですらあった。
ただ、攻撃という部分においては、両チームに違いが見えた。パリ・サンジェルマンはある程度、前線では自由にプレーさせていた。本来、パリ・サンジェルマンのトーマス・トゥヘル監督はしっかりとした論理性でチームを構築したい指揮官だが、ネイマールとムバッペという世界がうらやむ選手を抱えているだけに、自由な攻撃を許していた。この試合で、唯一、ファンタジーが生まれる場所であったが、先述したように、実際には縦に早い攻撃が多くなっていた。効果的だったから仕方ないが、ファンタジーが生まれるスペースは限りなく小さかった。
一方のバイエルンは、かなり共有意識を持って攻めていた。
たとえばこの日の得点シーン。59分に、キングスレー・コマンがヘディングで先制点を奪い取った場面だ。一見すると、パリ・サンジェルマンの下部組織出身の選手が、古巣への思いも強い中で前線に思い切って上がってゴールした、とも見られるだろう。
しかし、あの攻撃はバイエルンが練習していた形のはずだ。コマンにクロスを上げたのはヨシュア・キミッヒだが、キミッヒにボールが渡る以前、ミュラーが前線中央でつぶれながらも受けて、キミッヒに出している。そのミュラーへのボールは、大外のニャブリからのグラウンダーのクロスで、中央にいたキミッヒから受けたボールだった。つまり、中→外→中→外と揺さぶってのクロスに、逆サイドの選手が大外から入ってきて、FWの後ろでシュートを狙う。これとまったく同じ攻撃が、62分にも見られた。前線中央で受けるのがミュラーではなくレバンドフスキだったりするが、いずれにせよ、用意してきた形なのだろう。