大住良之×後藤健生『深夜の激論』!「J1再始動――世界屈指の面白さ」(3)ベガルタ椎橋、レッズのデンの獅子奮迅の画像
トーマス・デン(浦和)写真:アフロ 
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 2020年7月4日。ついにJ1リーグが再始動した。ファン・サポーターは観客席にいない。チャントや歌声は聞こえない。それでも、リモート観戦者たちのおくる熱い思いが、リモートマッチを戦うチームを奮い立たせる。ボールを蹴るボスッというド迫力の音が、指示を送るGKの大声が、スタジアムに鳴り響く。

 取材席の数は、1試合あたりわずか25席。そこに座る幸運にあずかったベテラン・サッカージャーナリスト2人が、TV観戦をした進行役と、マスクごしに口角泡を飛ばして語り合った。大住良之さんは、埼玉スタジアム2002から、後藤健生さんはBMWスタジアム平塚から、試合後に編集部へと駆けつけた。深夜0時にスタートした熱い激論は、予定の時間をはるかに過ぎても終わろうとする気配すらなかった。

進行:半田雄一/中田功(本誌編集長)

 

■期待が高まる浦和レッズ

半田 ではレッズ・マリノス戦をちょっと深掘りしたいんですが、ベスト・プレイヤーというと?

大住 レッズはやっぱりさっき言った、デンだよね。一番良かったと思うけど。あとね汰木(ゆるき)(康也)が良かったんだよ、汰木は今まで良いところを見たことなくて。

後藤 去年のACLで最初に出てきたときだけだよね。

大住 だってさ、出てきて滑って点取られたりしてるんだよ。滑るってのはスライディングしてって訳ではなくて、足を取られてって意味。試合のなかで2回もなんだよ。だったら1回滑ったら靴を履きかえないとね。だけど、今日はすごく良かった。60分くらいで代わったのかな。

半田 58分で代わってるけど、シュート3本撃ってますね。

大住 そうそう。その1本目が開始6分でさ。ものすごいシュートを撃った。左で受けて、内側へグッと入っていって、右足でボンと撃った。マリノスのキーパーの梶川(裕嗣)がすごいセーブをしたけど、あれが先制点でもおかしくないようなシュート。

後藤 興梠(慎三)はシュートゼロ?

大住 興梠はね、ちょっと空回りって感じだったかな。

半田 橋岡もシュートを撃ってますよね? クロスもあげていたし、ハイライト番組では橋岡のシュートとクロスが映ってた。

大住 まあ橋岡は、レッズが4バックにしたことで、合っているんじゃないのかな。彼は攻めに出た時にちょっとできることがあまりに少なくて。足が速くて、守備は強いけどね。

後藤 第一節では、その4バックがまだ消化不良だったけど。

大住 それはデンが入ったおかげかもしれないし、山中もすごく良く見えたんだよね、今日は。第一節じゃ厳しいなと思っていた二人が、すごく良かった。

半田 わりとマリノスは身体が重く見えるというか、走りの量が少なかったり……。

大住 まあ最初ね。最初はそんな感じだった、浦和が良いせいもあったと思うんだけど。だけど、後半になって上がってきたね。だって交代で出てきたのがね、マルコス・ジュニオールとエジガル・ジュニオだからね。すごいよね。天野(純)と遠藤(溪太)を引っ込めて。

半田 天野はどうでしたか?

大住 まだちょっと……前いたときのほうが光っていたな。だけど、マリノス自体が変わっちゃったからね。やるサッカーも変わったし。慣れるのには、まだすこしかかるんじゃないのかな。それでも小池(龍太)は良かったよ。小池って天野と一緒にベルギーから帰ってきた選手だけど。レイソルからベルギーへ行って、帰ってきた。昨日、松原(健)が怪我したんだって。それで小池が急に出ることになって。でもすごく良かった。

後藤 去年のマリノスはね、バックの4人がほとんど変わらずにずっとやってきたから。ここでチアゴ・マルチンスもいない、松原もいないってなると大変そう。

半田 ではマリノスはまだまだこれからかも。

大住 うーん、悪くはないんだけど。エジガル・ジュニオのところにすごいチャンスがあったんだけど、やっぱりまだ完全にフィットしていないって感じかな。

半田 スタートが遅れ気味。

大住 いや、マリノスがACLでシドニーとやったのは、すごい試合だったよね。

後藤 もう、シドニー大混乱だったよ。

大住 後藤さんも書いていたけど、マリノスのサッカーは知らないと大混乱だよね。

後藤 韓国の全北現代なんか、もうなにもできなくなっちゃったよね、反則して止めるしかなくなっちゃったもん。

大住 それがガンバにかかると、止められちゃうからね。

後藤 そうそう。平気で止めちゃったもんね。

大住 それでレッズもやっぱり止めちゃう。今日だってさ、ポステコグルー監督が、リスタートが遅すぎると。活かしてないって。それはコーナーキックとかフリーキックになるたびに、西川(周作)とかレッズの選手がワアッと声かけるんだよね。みんな集中して絶対に早くやらせないようにする。その辺だけでもずいぶん違うよね。

後藤 そうそう。それだけでもマリノスがイラだってくるよね。いつも早くやってるんだから。

大住 だから、やっぱりJリーグは後藤さんが書いているように。非常に研究熱心で、きびしい。

後藤 それはもう、レベルは高いよね。でも、ネガティブなのがちょっと。もうちょっとポジティブなことを研究すればいい気がするけど。

大住 それをね、マリノスがどうやって乗り越えていくかだから。

後藤 そうそう。

大住 まあ、選手層が厚くなっているし。1敗1分けになったけど、まだまだこれからいけるんじゃない。そんな悪くはないと思う。でもレッズが意外と良いんだよね。

後藤 それは今日一番のビッグニュース(笑)。

■ベガルタ仙台の椎橋慧也に注目

半田 では、ベルマーレ対ベガルタの深掘りを。

後藤 ベガルタが4-3-3で、本当にね、攻守ともにきちっと距離感を保って、すごくバランスのいい試合を90分続けた。それがすごかったね。

大住 でも、それでも最初の1点がなかったら、勝ちきれるかどうかは分からないよね。

後藤 それはもちろん勝負は分からない。あんな幸運な1点だけで、あと大したチャンスはない、ベガルタのほうはね。むしろチャンスの数でいったら湘南のほうが多かった。もちろん、1点リードされているチームは攻めるから、それはチャンスの数が増えるんだけどさ。だけどゲーム全体としたら、絶対仙台のほうがコントロールをしているというのは間違いない。

半田 ベガルタはシュートに迫力がなかったですよね。攻撃の最後のところが。

後藤 そうね。決めるところがイマイチだったというか、そういうのはあるな。シュート数はそれでもベガルタのほうが多いけど。決定機といえば後半、最後に湘南が何本かあったから、チャンスの数だと湘南。

大住 全体的に見て決定力というか、決めるべき時に決められるのは、やっぱりゲーム勘もあるかなっていう感じもするよね。

後藤 そうね。1点入る前に、もうひとつ最初にチャンスがあったのに、西村がフリーのシュートをミスしたしね。

大住 マリノスもシュートをけっこう撃っていたけど、枠はほとんど捉えていないんだよね。外れているのが多かった。

後藤 先週のJ2は結構、みんな良いシュートを入れてたんだけどね。

半田 ベガルタでベスト・プレイヤーというと?

後藤 ベガルタは、椎橋(慧也)。チームとしてすごくうまくいったんであって、だれかひとり選手っていうとすごく難しいことになるんだけど、アンカーのポジションで全体のバランスの中で、すごくうまくはまってた。だからまあ若い選手っていうこともあって、名前上げるなら彼かな。

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