勘亭流のアラビア文字
日本がネパールにも勝ったのを見て、翌3月28日にドーハ経由でジッダに向かいました。到着したのは夜の11時頃です。
ジッダはアラビア半島の西側、ヒジャズ地方にある紅海に面した古い貿易港で、預言者ムハンマドが生まれたイスラームの聖地マッカ(メッカ)までは約50キロです。マッカ巡礼はムスリム(イスラム教徒)にとって「五行」の一つとなっているので世界中から巡礼がやって来ます。巡礼は、かつては船でジッダに入ってマッカに向かったものですが、今では大部分がジッダ空港に到着します。巡礼者には巡礼ビザという特別なビザが発給され、そしてジッダ空港には巡礼専用ターミナルがあり、飛行機はまず一般ターミナルで一般客を降ろしてから専用ターミナルに向かいます。
さて、一般ターミナルの入国審査場にやって来ました。
「ビザは?」と係官。
「ありません。こちらに用意されているということですが……」とFAXを見せながら答えると、係官は僕を入国管理局らしい事務所の一室に連れて行きました。「さあ、取り調べか」と身構えていると、彼は机の前の椅子に僕を座らせて出て行ってしまいました。それから30分経っても、1時間経っても、1時間半経っても、そのまま誰も戻って来ません。夜も更けてきますし、これではまるで放置プレーです。
「うう~ん。参ったなぁ」。と、しびれを切らしているとようやく係官が戻ってきました。で、僕が座っていた椅子の前の引き出しから無造作に書類を取り出すと、いきなりパスポートにスタンプを捺して何やら文字を書き込みました。それがビザでした。
パスポートの1頁が埋まるほど大きな、空白がほとんどない勘亭流のような骨太のアラビア文字がびっしり書かれた紫色のスタンプでした。入国の日付もヒジュラ暦で「1417年何月何日」と(アラビア文字で)書いてありました。
サウジアラビア・サッカー連盟は「各チームが泊まっているヒルトン・ホテルに泊まれ」と言ってきたので、空港からタクシーでヒルトンに向かいました。ヒルトンのレセプショニストはビザを確認してから僕の顔をマジマジと見てこう言いました。
「珍しいビザを持ってるなぁ」
お見せできないのが、本当に残念です。「悪漢」どもめ!