■おなじみの相棒たち

 寄り道が長くなり過ぎた――。

 さて、重いバッグを背負い、ふうふう言いながら記者席への階段を上って、ようやく記者席にたどりつく。重いバッグを背中から椅子の上に下ろすと、ファスナーを開け、私は中身を次々とデスクの上に広げるのである。

 まずはノート。私は1994年からずっとコクヨの「Campus」を使っている。B5判で1ページに6ミリの幅で35本の薄い「横罫」。紙数は40枚。四半世紀以上、厳格にこの規格のものしか使っていない。この間に、コクヨは、2002年から10年間ほど「背」のテープの色を紺色にしたが、それ以外はテープは水色で、まったくデザインも仕様も変えていない。ありがたいことだ。現在のメーカー小売り値段は1冊210円だが、オフィス用品購入サイトで買えば税込み1冊140円ほどで買える。1冊で6~8試合の取材をまかなえるから、年に10数冊から多いときで20冊ほどになる。

最新のノート。残念ながら試合は2月23日でストップしている

 このノートを、私は試合の取材から記者会見の取材、インタビューのメモなど、仕事のすべての場面で使う。表紙には年とその年の通し番号を大きな文字で標記し、取材した試合やインタビュー相手などを日付とともに書き込む。ノートは完全に時系列だから、探すのは簡単だ。過去の試合のことを書くときなど、何年前の試合でも、私はまずそのときのノートを引っ張り出してくる。得点など重要なシーンとともに、印象に残ったプレーや試合中に考えたことなどを図入りでメモしてあるので、このノートが最も役に立つ。

 1984年に欧州選手権を取材後、その取材ノートの1冊をパリのシャルルドゴール空港のカフェでチェックしていたのだが、そのまま置き忘れてしまったことがある。その後欧州で大流行になる「3バックシステム」が生まれる重要な試合の取材記録がはいっていたので、いまでも口惜しい。

 ワールドカップでは取材ノートが4冊から5冊になるが、帰国するときには絶対にスーツケースには入れない。パソコンとともに機内持ち込みのバックパックに入れ、大切に持って帰るのである。私にとってはパスポート以上に大切なものなのだ。

 ノートとくれば、次はペンだ。

 10年以上前から、私は三菱鉛筆のノック式ボールペン「エクストリーム」の0.5ミリを使っている。黒、青、赤の3色1本ずつが机の上に並ぶ。

「エクストリーム」の書き味の良さは誰もが知っている

 試合取材では、最初のページに両チームの布陣を背番号で書く。両チームを離して布陣図を書く仲間も多いが、私はマークの関係などを記録したいので、できる限りユニホームカラーに合わせてチーム分けをするわけである。

 試合がキックオフされてからチェックして布陣図を書き込んでいくのだが、この作業が終われば赤と青のボールペンはペンケースに収められ、試合の様子は黒1本で記録していく。

 サッカー取材で欠かすことができないのが双眼鏡だ。選手の表情を見たり、ケガ人の様子を見るときに不可欠だ。

 大先輩の賀川浩さんは選手の心理まで読み解く深い洞察力に富んだ記事で知られるが、その秘密はまるで軍隊で使うような大きな双眼鏡にある。あの小さな体で、重さ1キロ近くありそうな真っ黒な双眼鏡をおもむろに目に当てる賀川さんの姿は本当にかっこ良く、あこがれた。

 だが私には、そんなに重い双眼鏡でバッグを重くする余裕はない。いろいろな双眼鏡を使ってきたが、いまはペンタックスの薄型「FB・9」というのを使っている。重さわずか150グラム。薄型なのでかさばらないのもいい。

賀川さんのようになれなかった私。双眼鏡は小型でコンパクト
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