コロナ禍でストップしているヨーロッパ・サッカー界で、現在進行中の超大型案件がある。プレミアリーグの人気クラブで、日本代表の武藤嘉紀が所属するニューカッスル・ユナイテッドの身売りだ。
2007年にニューカッスルの筆頭株主となった現オーナーのマイク・アシュリーは、2017年10月にクラブを売りに出していたが、ついに買い手が見つかり売買交渉が成立。手続きはリーグ機構の承認審査に回り、5月中旬には正式決定する見込みだ。
驚くべきはその買収金額だ。3億ポンド、日本円にして約400億円――。これは2008年のマンチェスター・シティの買収額2億1000万ポンド(約280億円)を上回り、2010年のリバプールの買収額と並ぶ。93年間もリーグ優勝から遠ざかるクラブとしてはまさに破格だ。
400億円のうちの80%、320億円を出資する新たな大株主は、サウジアラビアの政府系投資ファンド『パブリック・インベストメント・ファンド(PIF)』だ。PIFの代表はサウジのムハンマド・ビン・サルマン皇太子で、このプリンスが事実上のオーナーとなる。残り20%の80億円は、イギリス人の女性投資家アマンダ・ステイブリーと、イギリス人の資産家デイビッドとサイモンのルーベン兄弟が、それぞれ40億円ずつを出資するという。
買収額が破格なら、PIFの総資産がまた桁違いで、2600億ポンド、日本円でおよそ34兆5800億円と伝えられる。この金額はプレミアリーグの全オーナーのなかでも断トツで、マンCを所有するアラブ首長国連邦・アブダビ首長国の王子、シェイク・マンスール・ビン・サイード・アル・ナヒヤーンの230億ポンド(約3兆600億円)の10倍以上だ。イングランドはもちろん、世界でもっともリッチなクラブが誕生することになる。
サウジ資本の参入でさっそく期待されているのが、大金を投じてのチームの大刷新だ。新監督には、当代きっての戦術家で、トッテナム・ホットスパーをエリートクラブに育て上げたマウリシオ・ポエチェッチーノ(現在はフリー)が取り沙汰され、ブラジル代表のMFフィリッペ・コウチーニョ(バルセロナからバイエルン・ミュンヘンにレンタル中)、ウルグアイ代表のFWエディンソン・カバーニ(パリ・サンジェルマン)、セネガル代表のDFカリドゥ・クリバリ(ナポリ)といったビッグネームが獲得候補に挙がる。
かつて炭鉱で栄えた土地柄もあって、ニューカッスルのサポーターは熱狂的なことで知られるが、儲け第一主義のアシュリー・オーナーが戦力強化に意欲的ではなかったためにチームは低迷を続け、近年は意気消沈するばかりだった。そんなサポーターにとって、サウジの王族によるクラブ買収は、希望をもたらす朗報に違いない。