■南アフリカ戦の敗因
準々決勝、対南アフリカ。
前半の攻防、3対5。ラグビーには珍しいロースコアの展開、両軍の守備の充実の賜物。応援していても、胃が痛くなる展開、重苦しいが、すばらしい攻防だった。このような試合展開を見ると、サッカーとラグビーは兄弟スポーツなのだと改めて思う。両軍があれこれ工夫して攻めるが、対応する守備側が一切ミスをしない。すると、どうにもこうにもお互いが点が入るような機会をつかめない。言ってみれば、サッカーでもたまに見かけるシビれるような0対0のような展開。この難敵と前半ここまで戦ったジャパンの成熟を見た思いだった。
このまま粘り強く戦い続け、僅差のまま試合終盤に持ち込みたいところだった。しかし、ジャパンはハーフウェイラインまで攻め返す度に、南アフリカスクラムハーフのファフ・デ・クラークの妙技を軸に攻め返されてしまう。そしてスクラムを崩され、ペナルティで点差を開かれる。そして65分、ハーフウェイライン近傍からのラインアウトからのモールを約30m前進され、そこからデ・クラークの閃光のような突破を許し、2本目のトライ。16点差となり、事実上勝負は決した。それでも、リーチとその仲間達は決然と戦い続けてくれたのだが。
冒険は終わった。
ジャパンは見事な戦いを演じてくれた。既にサッカーでも明らかになりつつあることだが、フィジカルの差は何も言い訳にならないことが、改めて理解できた。時間をかけた科学的トレーニングで十分に列強に対抗できるのだ。アイルランドやスコットランドには、FW戦を互角以上に戦えたではないか。でも悔しいが、この南アフリカには後半スクラムやモールで完全に押し込まれてしまった。それでも、前半は相応に対抗し、一度はスクラムからペナルティを奪うこともできたのだ。最後力尽きたのは、鍛錬の差ではなく、素材や選手層の差だろう。
ただ、最終的に完敗に終わった要因は、素材や選手層とは違うところにあったと思う。
ファフ・デ・クラークである。
上記のモールから飛び出すトライ時の、スピード、走るコース取り、ボディバランス、いずれもすごかった。大会中再三話題となった、鋭いタックルを軸とした守備能力も格段だ。しかし、驚かされたのは攻撃時の構成力だ。悪魔のような精度のパントキック、直前まで左右いずれに出すのかわからない巧妙なパス、時に見せる強引だが効果的な単身突破。選択肢の多さと、その選択眼の確かさ。前述したが、後半ジャパンの工夫を凝らしての前進は、デ・クラークにことごとく封じられ、南アフリカの連続攻撃を許すことになった。
ジャパンが、もう1ランク上に行く(つまりベスト4以上を目指す)ためには、デ・クラークに匹敵するようなタレントの輩出が必要なのではないか。
一昨年のロシアW杯、ロストフ・ナ・ドヌ。ベルギーにはケヴィン・デ・ブライネがいた。私たちがまず目指すべきは、デ・クラークや、デ・ブライネの所有なのだ。わかりやすく言い換えれば、知性と技術を突き詰めたタレントの登場と言うことになるだろう。それが育成の工夫で可能となるのかはわからない、そのような選手が登場してくる土壌作りを積み重ねなければならないようにも思える。