昨年8月に英国の高級紙『The Telegraph』が報じたところによれば、2019/20シーズンから3シーズンのプレミアリーグの放映権契約は総額43億5000万ポンド(約6090億円=1シーズンあたり約2030億円)にのぼり、うち46パーセント(約2801億円、1シーズン約934億円)が国外からの放映権収入だという。そしてその最大のマーケットである中国からは、毎年約240億円、3シーズンで約720億円が流れ込む契約になっている。

 Jリーグでは「サポーターの高齢化」が問題視されて久しい。Jリーグが始まったころに「若者」だったサポーターたちがそのまま年を取ってスタジアムに通い続けているが、若い人がなかなかはいってこない。若いサッカーファンが欧州のサッカーに走り、Jリーグに興味をもたないためだ。

 私自身は、サッカーは何よりもスタジアムで楽しむものだと思っているが、よりレベルが高く面白い欧州のサッカーをテレビで見るほうがいいと思っている若い人が少なくない。それ自体が悪いわけではないし、他人の趣味をどうこう言うつもりもない。しかしこの現象によって、「日本の若いサッカーファンがサッカーに費やすカネが欧州のサッカーに流れている」という事態が起こっていることに注目しなければならない。

 本当なら、それはJリーグの観戦に向けられ、Jリーグのクラブの収入となり、日本のサッカー選手に高いモチベーションを与えたり、よりレベルの高い外国人選手を獲得するのに使われるものだったかもしれない。それが欧州に流れているのだ。世界中でこうした現象が起こり、欧州のサッカーだけが「わが世の春」を謳歌(おうか)し、「モンスター」のように他の地域から隔絶したものになってしまったのだ。

 この状況を放置すれば、格差は広がる一方になる。中国や中東に見るように、新興財閥が地元のプロサッカーの経営に乗り出すところはあるが、巨額の放映権収入を背景とする欧州の支配に対抗できるレベルのものではない。

 日本のJリーグも、一時の経営危機をダゾーンとの契約(これまでの2倍の放映権契約)により乗り越え、いまは活発な状況にあるが、欧州とは比較できるレベルでないことは言うまでもない。

 そこで私の試論である。乱暴に聞こえるかもしれないが、ヨーロッパに流れ込んでいるサッカーの放映権料を原則として自国に流すのだ。

 サッカーを含む「興業」には、「フランチャイズ(地域権)」という概念があり、それが保護されている。たとえば、「北海道札幌コンサドーレ」というクラブはJリーグ規約第25条「ホームタウンを含む都道府県を活動区域とする」により、北海道全域で排他的にプロサッカークラブとして事業を行うことができる。他のクラブ、たとえば浦和レッズが北海道で試合を開催しようとしたら、コンサドーレの了解を得なければならない。同じように、たとえばプレミアリーグがその公式戦のひとつを日本で開催したいと思っても、日本という地域のプロサッカー事業の権利はJリーグがもっているので、Jリーグの承認がなければならない。

 しかし現在のところ、放映権にはフランチャイズの概念はない。だからUEFAはチャンピオンズリーグの放映によって、プレミアリーグは日本での放映によって多額の放映権収入を得ることができる。

 その放映権にも、フランチャイズの概念を導入しようというのが、私の試論である。

 そうなれば、UEFAチャンピオンズリーグやプレミアリーグを日本で放送するなら、放映権料はJリーグに支払われることになる。プレミアリーグは、イングランドでJリーグを放映する際の放映権料を取ることになる。

 これによって、世界のプロサッカーは劇的に変わる。欧州に流れていた資金が自国のプロリーグにはいるようになり、その分配金でクラブの収入が上がり、選手たちにきちんと給料を支払うことができるようになる。スターの「欧州一極集中」が壊れ、世界中のプロサッカーが健全に運営できる道が開ける。

(※後編に続く)

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