(この記事は2015年5月9日に発行された『サッカー批評74』(双葉社)に掲載されたものです)
※この対談は2015年3月24日に行われました。
データならびに個人のインプレッションは3月24日時点のものであることをご了承ください。
インタビュー・文◎六川亨 Toru Rokukawa
撮影◎渡辺航滋 Koji Watanabe
現在のJリーグを語る上で欠かせない両名の対談が実現した。
2ステージ+チャンピオンシップ制への移行など、大きな改革が行われた今シーズン。
これまでの反省、改革に秘められた意図、この先への期待。
両名にしか語れぬ本音は一言たりとも見逃せない。
珠玉の対談、第1回は現在のJリーグについて。
Jリーグの理念と経営の狭間で
木之本 現状を見ていて、もう一つ驚くことがあります。これはチェアマンに失礼なのですが、J2に落ちたチームがJ1に返り咲いて、ポンとJ1で優勝しちゃう。それが2チーム(柏レイソルとガンバ大阪)出て来て、そのうち1チームは3冠も取った。そうすると他のJ1チームは何をしているのかと。J2もJ1も、もう実力的に境はなくなってきたんじゃないですかね。天皇杯もしかりです。昨年はJ1がボロボロ負けていきました。J2のチームがベスト16のうち7つ残った。もうちょっとJ1の質を上げないといけないのではないでしょうか。水は低い方にしか流れない。水を上にあげるためには動力を使って上げないと不可能。自然のままに任せていたら低い方に流れる。そうするとJ1が18クラブ、J2が22クラブですが、この40クラブに水位の差はあまりないんじゃないか。そういう印象を僕らは強く持っちゃうんですよ。
村井 そんなことはないと思いながら経営しているのですが、高い樹を作ろうとしたら広く深い根っこを張らなければなりません。現在J3まで含めると37都道府県にJクラブがあり、日本中の子どもたちが近くでプロのサッカーに触れることができています。高くまで伸びるためには幹が太くなければならず、J3によって広く深い根っこができつつあります。J2は幹の役割なのですが、22クラブ中11クラブがJ1を経験しているクラブになりました。
木之本 私の勤務していた古河電工を母体に誕生した千葉なんかは、J2に落ちて6シーズン目、もう「蒲鉾」です。J2が「板についてる」(笑)。
村井 本当は板については困るのですが(笑)、そのJ1という高みを知っているクラブが半分あるということは、常にJ1に戻りたいというエネルギーを持っているクラブもそれだけあるということです。僕はそれが成長のエンジンだと思っていますし、やっと今年はJ1とJ2で債務超過クラブがなくなりました。今までは借金を抱えて選手を獲得したものの、選手が機能しないで破綻するリスクを負ってシーズンに臨むという、まるで賽の河原を積んで崩すようなことを繰り返していたフェーズから、ここからは成長戦略に入っていけます。
木之本 それは自分が関わっていた時にはなかったことですね。経営問題をシビアに見ていくということは。
村井 さらに、この先J1が全体でリーグ収益を上げたら、これはJ2に分配するのではなくて、J1に優先的に配分することを決めています。クラブライセンス制度等を通じて土台を作ったので、ここからはクラブ経営の配分金の傾斜ルールなど、様々な成長戦略を描いて行くフェーズの先に、結果としてビッグクラブができていく。Jは始まって23年の過渡期で、そこで歩むステップを間違えてはいけないと思っています。根っこもない、幹も細い、だけど借金ばかりして形だけのビッグクラブを創ったとしてもサッカーに繁栄はない。戦力均衡型の土壌ができてきたので、ドイツではその先にバイエルン・ミュンヘンができたように、僕はこのスタイルで、この先のJ1に大きな飛躍を期待しています。そういうフェーズにやっと立てたと僕は思っているのです。