■空費される「セレモニー」の2分近い時間

 この「事件」で考えなければならないことがあるとしたら、それは「10ヤードルールの不徹底」という現代のサッカーが抱える小さからぬ問題ではないだろうか。

 ファウルがあって笛でプレーが止められる。すると守備側の選手は、誰かが素早く動いてボールの前に立ちふさがり、残りの選手が壁をつくったり、ポジションをとったりする時間を稼ぐ。攻撃側はクイックリスタートを妨げられ、サッカーで最もスリリングなシーンのひとつが失われる。こうした行為は、まるで「戦術」のように当たり前に行われている。

 攻撃側のアピールによって、あるいはその同意を得て、主審は笛を吹いてFKが行われるのを止め、守備側に規定の距離まで下がることを命じる。バニシングスプレーでボールの位置をマークし、10ヤード測ってそこに守備側のラインを引く。当初7メートルほどのところにつくられていた「壁」がそこまで下がると、こんどはその1メートル手前にもう1本のラインを引き、攻撃側はこれ以上壁に近づいてはいけないと指示する。そしてようやくすべてが収まると、主審は小走りに自分がいるべきポジションにつき、笛を吹いて「キックOK」を示すのである。

 サッカーという競技に、こんな時間が必要だろうか。ファウルで笛が吹かれたら、攻撃側はすぐにボールを手で押さえて停止させ、FKを行う。守備側はさっさとボールから離れ、必要なポジションをとり、FKに対応する。そんなプレーができたら、サッカーはもっともっとスピーディーに、そしてスリリングなものになるのだが、実際には上記のような「セレモニー」で2分間近く空費されてしまうのである。

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