■「これがサッカー」と思われないために…

 さて、一番大事なことを忘れてはいけない。アンパイアが問い合わせ、決定を委ねたピッチ外の人物は、懐中時計を持つ「紳士」だった。当時の紳士の昼間の礼装と言えば、「フロックコート」と決まっていた。膝丈の長い上着のようなもので、色は「黒」が定番だった。

 ここに「黒」が出てくるのである。サッカーの審判のウエアが黒なのは、この時代の「フロックコート」からのなごりなのである。

 レフェリーとは、対戦する両チームが自分たちだけでは試合を進められなくなったため、ピッチの外にいた人にお願いしてピッチの中に入ってもらい、最終的な判定を委ねた人だったのである。その証拠が、「黒いウエア」なのである。

 お願いされた「紳士」は、両チームの選手たちがサッカーの試合を楽しむためにと、不承不承(かどうかは人によって違っただろうが)その役を引き受け、黒いフロックコートのまま、手に鉄道用の笛を持って、ピッチに引き出されたのである。

 このような経緯を知れば、主審の判定には従うしかなく、執拗に異議を唱えたり、はては大声で怒鳴って威嚇するなど、言語道断ということが理解できるのではないか。少年少女にサッカーを教えるにあたって、プレーヤーたち、そしてその保護者たちに、指導者たちはまず、こういう話をしっかりとするべきだと、私は思っている。

「サッカーのプロ」であるJリーグの選手や監督たちは、こうした話は間違いなく知っているはずだが、実際にピッチやテクニカルエリアに立つと、すっかり忘れてしまうらしい。監督たちが大げさなジェスチャーで怒鳴るのをテレビも面白おかしく映すから、「これがサッカー」のように思われてしまうフシもある。何かしらの工夫をして、シーズンごと、試合ごとに、強く思い起こさせる必要がある。

 この連載は、細かなどうでもいい話ばかり取りあげているが、今回はとてもまじめな話なのである。

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