大住良之の「この世界のコーナーエリアから」第165回「延長戦はサッカー界の“特別な時間”」(1)欧州サッカー連盟で検討された「いきなりのPK戦」、勝者を決めるために「再試合から進化」、採用後50年以上たって「廃止されたルール」の画像
2022年のカタールW杯で優勝したアルゼンチン代表。フランス代表との決勝戦は手に汗握る延長戦、そして最後はPK戦で勝敗が決した。撮影/原悦生(Sony α-1使用)
 サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような「超マニアックコラム。今回は、「帰るのが遅くなりそうだけど“特別な時間”」について。

■「PK戦狙い」のチームが増える?

「延長戦をなくし、即座にPK戦にしよう」

 今年4月、欧州サッカー連盟(UEFA)のクラブ競技委員会は、この提案を慎重に検討した結果、退け、延長戦を継続することを決めた。「延長戦をなくすと、弱小チームが、よりPK戦狙いの守備的な試合をする恐れがある」という理由だった。

 もっともこれは、ホームアンドアウェーの2戦制で行われる欧州のクラブカップ戦のノックアウトステージでの話。過密日程の中で延長戦は選手たちに無理を強い、ケガの恐れが増えること、そして、延長戦・PK戦になるのは2戦目なので、2戦目のホームクラブにとって有利過ぎるというのが、「延長戦廃止案」の提案理由だった。

 リーグ戦には延長戦はない。90分間が終わったとき、同点なら「引き分け」でいい。初期のJリーグには「Vゴール制の延長戦」と「PK戦」があったが、それは特殊中の特殊なケースである。

 しかしノックアウト方式の大会や、大会の後半がノックアウト式で行われるワールドカップなどの大会では、90分で同点なら、次のラウンドに進出するチームを決めるために30分間(15分ハーフ)の延長戦が行われる。ルールの第10条「試合結果の決定」の第2項に、公式に認められた「競技会規定として勝者を決定する必要がある場合」として、次の3つが挙げられている。

 

・アウェーゴールルール(注:ホームアンドアウェー形式のとき)
・それぞれ15分以内で同じ時間の前半と後半からなる延長戦
・PK戦(ペナルティーシュートアウト)
(上記の方法を組み合わせることができる)

 

 アウェーゴールは1965/66シーズンの欧州カップウィナーズカップ(UEFAチャンピオンズリーグの前身大会のひとつ)で初めて採用された。2試合合計の得失点が並んだ場合に、アウェーゲームでの得点が多いほうを勝ちにするという制度である。しかし半世紀以上続けられた後、UEFAは2021年に使用をやめた。アジアサッカー連盟(AFC)も、2023年に廃止している。

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