大住良之の「この世界のコーナーエリアから」第162回「サッカー史上最高の監督は誰か?」(4)成熟したクライフの下で「完成した」トータル・フットボール、今でも「目標とされる」現代サッカーの主流の画像
昨年のEUROでは、準決勝でイギリスに敗れたオランダ。ワールドカップの準優勝も、欧州選手権での優勝も、「史上最高の監督」が率いた2大会で成し遂げられた。撮影/原悦生(Sony α1使用)
■【画像】今も「目標とされる」サッカー史上最高の監督

 サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような「超マニアックコラム」。今回は、世界中が約半世紀にわたって背中を追い続けてきた「モダン・サッカーの父」、ヨハン・クライフを見出した「サッカー史上最高の監督」について。

■成長とともに「戦術」も進化

 そうしてトレーニングを進め、オランダ・リーグで勝利を積み重ねるにつれ、ミケルスに新しいアイデアが浮かび上がった。選手の成長とチームの進歩は、コーチの頭脳を刺激する。「プレッシング・フットボール」である。

 ミケルスの狙いどおりに規律が貫かれ、チームが機能するようになれば、自然に試合を「支配」する形になる。そうしたチームであれば、ボールを失ったときには自陣に引くのではなく、中盤で積極的にボールを奪いに行かなければならない。中盤を狭めるために、当然、DFラインは浅くなり、オフサイドトラップも多用することになる。

 ミケルスはトレーニングの方法を変え、このスタイルをアヤックスに植えつけた。肉体的に鍛え上げて、ハードワークをこなせるようにしなければならない。同時に、精神的にも成熟した選手を並べ、さらには1人か2人の優秀なリーダーが必要だった。幸いなことに、アヤックスには、20代の前半にさしかかっていたクライフがいた。

 そしてクライフのさらなる成熟によって、ピッチ上で選手たちが次々とポジションを替え、役割を変えていくことが可能になった。若い頃は純粋なアタッカーだったクライフは、20代のなかばを迎え、時に中盤に引き、思いがけないところに正確無比なパスを通すようになった。そして次の瞬間には、最前線に出て決定的な得点を決めるのだ。

 こうして、「圧迫し」「追い詰め」「狩り」そして「動く」、「トータル・フットボール」が完成する。

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