
サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような「超マニアックコラム」。今回は、世界中が約半世紀にわたって背中を追い続けてきた「モダン・サッカーの父」、ヨハン・クライフを見出した「サッカー史上最高の監督」について。
■成長とともに「戦術」も進化
そうしてトレーニングを進め、オランダ・リーグで勝利を積み重ねるにつれ、ミケルスに新しいアイデアが浮かび上がった。選手の成長とチームの進歩は、コーチの頭脳を刺激する。「プレッシング・フットボール」である。
ミケルスの狙いどおりに規律が貫かれ、チームが機能するようになれば、自然に試合を「支配」する形になる。そうしたチームであれば、ボールを失ったときには自陣に引くのではなく、中盤で積極的にボールを奪いに行かなければならない。中盤を狭めるために、当然、DFラインは浅くなり、オフサイドトラップも多用することになる。
ミケルスはトレーニングの方法を変え、このスタイルをアヤックスに植えつけた。肉体的に鍛え上げて、ハードワークをこなせるようにしなければならない。同時に、精神的にも成熟した選手を並べ、さらには1人か2人の優秀なリーダーが必要だった。幸いなことに、アヤックスには、20代の前半にさしかかっていたクライフがいた。
そしてクライフのさらなる成熟によって、ピッチ上で選手たちが次々とポジションを替え、役割を変えていくことが可能になった。若い頃は純粋なアタッカーだったクライフは、20代のなかばを迎え、時に中盤に引き、思いがけないところに正確無比なパスを通すようになった。そして次の瞬間には、最前線に出て決定的な得点を決めるのだ。
こうして、「圧迫し」「追い詰め」「狩り」そして「動く」、「トータル・フットボール」が完成する。