■■縛られるのが「大嫌い」な選手たちに…
こうしてなんとか2部降格を免れると、2年目には中盤の補強に成功し、安定した試合ができるようになって、アヤックスはチャンピオンの座を取り戻す。その過程で、彼が最も重視したのは「規律」だった。
オランダは国王を持つ「王国」だが、古くからそれは「シンボル」に過ぎず、オランダ人は自由を愛してきた。オランダという国自体、祖先がひたすら低地を埋め、浅海を締め切って干拓してつくってきた国土のうえにつくられた国だったからだ。
「世界は神が創ったが、オランダはオランダ人が作った」
古くからそう言われてきた。その自負を持つオランダ人たちは、何かに縛られるのが大嫌いだった。
しかし、サッカーは「素敵な趣味」ではない。ミケルスが実現しようとしていたサッカーには、「規律」が不可欠だった。攻撃と守備、それを効果的に繰り返すためには、やるべきことを明確にし、それを徹底して実行する「規律」がなければならなかった。ミケルスの「規律」は、ピッチ上だけでなく、私生活にまで及んだ。夜遊びはご法度だった。
ミケルスは、チームの利益を最優先し、個人的な能力をチームのために生かそうとチームプレーのトレーニングを課した。彼の見るところ、アヤックスの選手たちは精神的に未成熟で、27歳頃になってようやく自分の能力をチームのために100パーセント発揮できるようになる―。そこで、もっと若いうちに精神的に成熟させることがコーチの重要な仕事と考えた。