■「私が解決できるんだったらしたい」
“選手ファースト”と常々口にしている指揮官はそうした説明をするときに選手目線なのか、あるいか、監督として話すのかも聞いてみた。長谷部監督は、「いや、両方あります」と切り出して、以下のように続ける。
「大事なことは、自分が思っていること、考えていることをなるべくそのまま伝えること。無理なことは言いません。(たとえば、あと)身長10cm伸びないからダメなんだよって、それは難しいですよね。だからそういうことは言いません。“もう少しうまくならないと”とか、“もう少しこうじゃないと”っていうことを話します」
その裏にあるのは選手の成長を願う愛情があればこそで、「愛情も何も、そういう姿勢でこっちもいたいです」としながらも、「選手も、時々コーチもありますよね、悩みっていうのはね。私が解決できるんだったらしたい」と目線を遠くに向ける。
「スタートで出たいっていう(選手がいたとしたら)、たとえばこれは多くのベンチの選手が思ってるんですけど、(でも、先発の)枠が11個しかないので、そこに入るにはどうしたらいいかということですね。(そのためには)これとこれって多分10個ぐらい(必要なものが)あって、できるようにならないとって。難しくて簡単じゃないけど、でも一個ずつ潰していったらチャンスあるんじゃないって」
決戦前日のジェッダであえて青空会談をしたのは、その重要な一戦を前に、選手の心をクリアにしておきたかったからだろう。
勝負の世界、そして競争の世界であるだけに、全員が光を浴びることはできない。影にいる選手もいれば、涙する機会もある。その中で一つになるために、そして、それぞれが前に進むために――ジェッダで見た光景はその一つの場面に過ぎないが、一方で、クラブが前進するうえで重要な場面でもあった。
(取材・文/中地拓也)
【その12「竹内弘明強化本部長」へ続く】