大住良之の「この世界のコーナーエリアから」第160回「サッカー代表チームを持たない最後の国」(2)フライト代200万円をかけて地球の反対側を訪れた「サッカーの伝道師」の画像
2人の情熱が「世界最新」の代表チームを生み出そうとしている(写真はイメージです)。撮影/中地拓也

 サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような、「超マニアックコラム」。今回は、「南洋」の「サッカー未開の地」の話。

■サッカー協会を設立した「エンジニア」

 核汚染で苦しめられてきたマーシャル諸島は、1990年代には新たな「国消滅」の危機があることに茫然とする。地球温暖化による海水面の上昇である。国土の平均海抜はわずか2.1メートルに過ぎず、すでに人が住めなくなった環礁が10を下らない。観測によれば、1993年以来、海面は1年あたり3.4ミリ上昇している。海面が1メートル上がると、全人口の半分が暮らすマジュロ環礁の大半も浸水してしまうという。

 このマーシャル諸島にサッカーの花を咲かせようとしたのが、地元の電力会社のエンジニアだったシェム・リヴァイという男だった。2020年にサッカー協会(MISF)を設立したとき、彼はまだ30代の勤め人だった。米軍基地のあるクェゼリン環礁にあるエバイ島(1万2000人が暮らし、首都マジェロに次ぐこの国第2の町)出身、ハワイ大学で機械工学を専攻、卒業後ハワイでアメリカ運輸省空港部門に勤務していたが、後にマーシャル諸島に戻り、マジュロにある「マーシャルエナジーカンパニー」で発電所運営マネジャーを務めていた。

 彼自身は少年時代からバスケットボールをプレーしていた。しかし、息子がどうしてもサッカーをしたいというのでいろいろ調べてみた結果、驚くことにマーシャル諸島にはサッカーを統括する組織(協会)がないことに気づいた。急いでサッカー協会を設立し、以来この国のサッカーの発展に努めてきたのである。

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