後藤健生の「蹴球放浪記」第257回「ワールドカップとインフレ」の巻(1)「加速する」米国のインフレと「3万8000ペソ」のバス運賃、人類史上「最高額面紙幣」の驚きの金額の画像
トルコのかつての「500万トルコ・リラ」紙幣。提供/後藤健生

 世界経済をリードするアメリカのインフレが止まらない。日本も含めた地球規模の悪影響が懸念される中、蹴球放浪家・後藤健生の脳内では、「2つのワールドカップとインフレの記憶」が呼び起された。

■日常の買い物でも「数百万」「数千万」

 昔(昭和の時代)、「100円」のことを「100万円」という言い方をよくしたものです。お釣りを渡すときに飲み屋のオヤジが(飲み屋でなくても、青果店でも、乾物屋でもいいのですが……)「へいっ、100万円!」と言うわけです。あるいは、「100万両!」という言い方もありました。

 大きな数字で言うことによって、景気づけをするわけです。

「1両」というのは、現在の貨幣価値に換算すると「数万円」程度ですから「100万両」というのは数百万円。「100万円」よりもずっと大きな金額です。

 1978年のワールドカップ観戦でアルゼンチンに行ったときに、同じようなことを経験しました。

 アルゼンチンという国は、20世紀前半には農業や牧畜業によって経済的に栄えていました。第1次世界大戦でヨーロッパが大きな被害を受ける中で、小麦や牛肉など食料や工業製品をヨーロッパに輸出していたのです。

 南米では圧倒的な経済力を誇り、首都のブエノスアイレスには高層ビルが建ち並び、「南米のパリ」と呼ばれるようになります。その後も、1960年代までは1人当たりのGDPでは日本より上だったそうです。

 しかし、無理な工業化を進めたことや、フアン・ペロン大統領とその支持者たちによる左派ポピュリズム政権によるばら撒き政策で財政規律が失われたことで、経済は苦境に陥り、何度もインフレーションに見舞われます。

 激しいインフレによって物価が上がり、日常の買い物でも「数百万」、「数千万」という単位の金額をやり取りすることになってしまいます。

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