■バス運賃が「3万8000ペソ」

 そこで、政府はインフレの抑制を狙ってデノミ(デノミネーション)を行います。

 厳密に言うと難しいのですが、一般的に「デノミ」というと通貨の切り下げのことを言います。

 たとえば、通貨を1000分の1切り下げると、それまでの「100万」が「1000」になるわけです。

 1970年1月にアルゼンチンでは100分の1のデノミが行われました。つまり、「0」を2つ取ることになったのです。

 しかし、当時のアルゼンチンの庶民たちは(昭和の飲み屋のオヤジと同じように)大きな(つまり、デノミ前の)数字を使うことがあったのです。

 ですから、バスに乗って運転手に運賃を聞くと(当時は、運転手が運転しながら切符を売っていた)、「380ペソ」のことを「3万8000ペソ」と言われて、何も知らない人はビックリしてしまうわけです。僕は幸い、事前にそういうことがあると聞いていたので平気でしたが……。

 なお、アルゼンチン経済はその後も停滞を続け、3度もデノミを行っています。1983年と1992年のデノミでは、それまでの通貨が1万分の1に切り下げられ、通貨の単位もペソからアウスロラル、そしてまたペソに変わりました。1ペソ=1米ドルに固定されていた時期もありました。

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