■信じがたい「愚行」と非難の声も

 20世紀後半にアメリカの若者たちに大きな人気を持っていた作家カート・ヴォネガットの『ジェイルバード』という小説(1979年発表)に、「転轍手の居眠り」という「小説内小説」が出てくる。

 天国の門の外にある巨大な受け入れセンターに、公認会計士や投資顧問やビジネス・マネジャーが詰めていて、やってきた人に「天国に入るためには、地上のあなたに与えられたビジネスの機会を、あなたがどれだけうまく活用したかについて、完全な報告書を提出しなければならない」と言う。そして、さまざまなカネ儲けの機会を逃した人に、うんざりしきった声でこう言う。「ほら、そこでもあなたはまたやったんです――転轍手の居眠り(『だいじなときに注意を怠る』という意味の言いまわし)をね」(浅倉久志訳、早川書房刊の本から要約)

「転轍手」とは、鉄道の線路を分岐させて車両を別の線路に導く係員のことである。この小説は現代の「自由経済」への痛烈な批判がテーマになっているのだが、ブライトンの経営者と三笘は、間違いなく会計士から「転轍手の居眠り」と非難されるに違いない。

 天国の会計士たちだけではない。移籍サイトの「Transfermarkt」は、三笘薫の現在の「市場価値」を4500万ユーロ(約72億円)としている。その倍に当たる9000万ユーロのオファーを断るなど信じがたい愚行と非難する声も高い。(2)に続く。

(2)へ続く
  1. 1
  2. 2
  3. 3