■鬼木監督が惜しまない家長昭博谷口彰悟への賛辞

 さまざまな話が出る中で、鬼木監督に向けたのは、家長昭博と谷口彰悟のサプライズについてだ。ベテラン2人が体を張って場を盛り上げ、中村憲剛を明るい空気の中で見送ろうとする姿が、まさしく川崎フロンターレの良さを凝縮したものだと思ったからだ。
 鬼木監督に話を向ければ、さらに表情を柔らかくして、「やっぱりね、あれができるのが彼らの強みですよ、本当に」と両者への賛辞を惜しまない。
 そして、「アキもそうじゃないですか。笑いながら、でも、やっぱり嬉しそうにやってたし、ベテランのって言ったら変ですけど、やっぱり彼らの強みでいいかなって思いますね。まあ、ライバルでしたからね、本当に。そういうものにしか分からないものはあると思う」と続ける。
 家長はクールな印象を与え、谷口はその甘いマスクとキャプテンシーから“優等生”の印象を与えるが、チームメイトや仲間のためなら、こうした引き立て役になれる。しかも、家長と中村が本来はライバルだったという背景を理解したうえで、その関係性を簡単に乗り越えることが指揮官にとっては嬉しくも誇らしくもある。
 そうした絆が、このチームで他にはない空気感を醸造させ、そして、ピッチの上の強さに変えてきたことに余念はない。先述した故人2人への思いをあえてピッチで表現しようとすることも、同じ気持ちから出ている。
「うるっと来ました」
 筆者の言葉に、鬼木監督は「いやあ、来ますよね。同じです、その思いは」と視線を上に向ける。
 そんな鬼木監督にとって、この引退試合は当日だけのものでなく、その前からさまざまな思いがあったものだという。その裏側が、改めてフロンターレの絆を感じさせるものだった――。
(取材・文/中地拓也)
(後編へつづく)

(2)へ続く
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