サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような「超マニアックコラム」。今回のテーマは、伊東純也と中村敬斗、2人のサッカー日本代表選手が背負う「フランス人の誇り」。
■ランスで戴冠式を行った「聖なる乙女」
ランスはローマ支配前のガリア時代からあった町で、「レミ族」というガリアの一部族の中心的城市だったという。「レミ」とは「最初の」という意味で、このあたりに最初に住み着いたガリア人(ケルト人の一派)の部族だったらしい。
ローマ建国の祖とされる双子「ロムルスとレムス」の片割れであり、後にロムルスに殺されたレムスの子孫という伝説もあるらしいが…。ともかく、「レミ族の町」ということで「Reims」という現在の都市名が生まれたと言われている。
5世紀からフランスの国王の戴冠式は、このランスで行われることになっており、12世紀に建設されたノートルダム大聖堂は現在では世界遺産に登録され、この町を訪れる年間約150万人の観光客の最大のターゲットになっている。
このノートルダム大聖堂とともに「ランス」の名をフランス人の心に残したのが、「ジャンヌ・ダルク」だ。15世紀前半、イングランドとの百年戦争(戦争と言っても、イングランドが一方的にフランスに攻め込み、その領土をむしばんでいたものだった)でイングランドに占拠されていたオルレアンを奪回する戦闘を、この17歳の少女が指揮した。
彼女はランスのノートルダム大聖堂でシャルル7世の戴冠式まで実施し、一躍、国民的英雄となった。2年後に「魔女裁判」にかけられて刑死するが、オルレアン奪還が戦争の転機となり、それから四半世紀を経てイングランドはフランスから撤退することになる。