ハーフウェイライン付近にいたサンフレッチェ広島のボランチ川辺駿が、FC町田ゼルビアの選手に悟られないように、小さく手を振りながらボールを求めた。
両者が勝ち59で並び、得失点差で上回る広島が首位に立つ状況で迎えた28日のJ1リーグ第32節。今シーズンで2番目に多い2万6655人が駆けつけた広島のホーム、エディオンピースウイング広島が再び熱狂したのは23分だった。
今夏に加入したMFトルガイ・アルスランが、敵陣の左側で倒された直後。ほんの一瞬ながら、町田がエアポケットに陥った隙を川辺は見逃さなかった。
素早く立ち上がったアルスランが、センターサークル内でボールを要求していた川辺の存在に気がつく。パスを受け、ボールをもちあがった背番号66がタイミングを見計らって、右斜め前方を駆けあがる中野就斗へパスを送った。
先制点をアシストした前半3分の場面のようには切り返さず、スピードに乗って一気に縦へ仕掛けて町田のDF林幸多郎を抜きにかかった中野が振り返る。
「あそこは股が開くと思ったので、速いボールで股間を通そうと考えていました」
予想通りに林が足を伸ばしてブロックに飛び込んでくる。必然的に開いた林の股間を通過したボールは、ニアへ飛び込んできたFW加藤陸次樹の左足をかすめてゴール内へ。このときは真ん中とファーに3人もの広島の選手が詰めていた。
「ウイングバックで出るからには、得点に絡みたかったのでよかった」