■全国民が心からの幸福感に浸った「勝利」

  野球場は収容1500人と小さいが、満員になると3塁側スタンドの背後にある芝のスロープが開放される。サンマリノは、「野球専用スタジアムを有する世界で最も小さな国」であるという。

 サンマリノは今年のパリ・オリンピックではメダル獲得はならなかったが、2021年に行われた東京オリンピックでは射撃の男女とレスリング(男子フリースタイル)で計4つのメダルを獲得した。なかでも射撃の女子トラップで銀メダルを獲得してサンマリノに史上初のオリンピック・メダルをもたらしただけでなく、混合トラップでは銀メダルを獲得したアレッサンドラ・ペリリは、一躍ヒロインとなった。

 しかし、野球のクラブが強くても、オリンピックのメダリストが出ても、サンマリノの人々のスポーツに対する関心の中心は、やはりサッカーにある。だからこそ、サンマリノ生まれでサンマリノの国籍にこだわり続け、選手生活の晩年に念願のサンマリノ代表選手として奮闘したマッシモ・ボニーニが、この国が生んだ史上最高のスポーツ選手として敬愛されているのだ。

 34年間、206もの試合で勝ったのはわずか2回。だからこそ、2024年9月5日にサンマリノ・スタジアムの観客席にいた941人の観客だけでなく、3万4000のサンマリノ全国民が狂喜し、心からの幸福感に浸った。そして「聖マリノ」、いや、「石工のマリヌスおじさん」も、標高749メートルのティターノ山の山頂にある墓のなかで、喜びの表情を浮かべているに違いない。

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