大住良之の「この世界のコーナーエリアから」第146回「小さな国の大きな勝利」(2)イタリア代表入りを拒み続けたプラティニ擁するユベントスの「汚れ役」の画像
サッカーが弱い祖国のために、国際大会での栄光に背を向けた男がいた。(写真はイメージです) 撮影/中地拓也

 サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような、「超マニアックコラム」。今回は、小さな国の大きな勝利。

■フランスの英雄に「走るのが仕事」と言われた選手

 サッカーの世界で「サンマリノ」の名を聞いたのは、1980年代前半にイタリアと欧州で強豪の名をほしいままにしたユベントスを見たときだった。GKディノ・ゾフらイタリア代表の中核をなす守備陣の前に、MFミッシェル・プラティニ(フランス代表)、MFマルコ・タルデリ、FWパオロ・ロッシ(ともにイタリア代表)などのスター選手が並んでいたのだが、そのひとりにマッシモ・ボニーニという守備的MFがいた。彼がサンマリノ国籍だったのである。

 1959年10月13日生まれ、美しい金髪を持った選手だったが、彼の役割はプラティニやタルデリのために走り、戦い、ボールを刈り取って攻撃につなげることだった。いわば「汚れ役」を一手に引き受けていたのである。現役時代に同じような役回りを演じていたジョバンニ・トラパットーニ監督から大いに気に入られ、1981年から1988年の間にユベントスでセリエAに192試合出場、後にはボローニャに移って活躍した。

 ユベントスの会長であると同時にイタリアの巨大自動車メーカー「フィアット」の会長でもあったジャンニ・アニェリに対し、ユベントスの一選手であったプラティニが話したという言葉はあまりに有名だ。ある日、アニェリはプラティニの喫煙習慣をとがめる発言をした。それに対し、プラティニはフランス人らしい皮肉な笑顔を浮かべ、こう語ったというのだ。

「会長、そんなことより、大事なのはボニーニがタバコを吸わないことですよ。彼は走るのが仕事ですからね」

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