■選手たちを奮い立たせた「君が代」の大合唱
試合前に驚かせたのは、「君が代」の大合唱が起こったことだった。大相撲の千秋楽以外には見られない光景であり、しかも当時の国立競技場の巨大なバックスタンドから湧き上がった大合唱は間違いなく選手たちを奮い立たせた。
「ニッポン、チャチャチャ」の声援と拍手は、国際試合では見慣れたものだったが、それが1万人を超す声と拍手になると、迫力はまったく違った。そしてピンチになるとGKの鈴木康仁を励ます「スズキ、スズキ!」の連呼。惜しいシュートがあれば、「オザキ、オザキ!」の声。たえまないチアホーン、舞い散る紙吹雪。こんなにたくさんの若者が心をひとつにしてチームの奮闘を引き出す姿は、まさに新時代のものだった。
3試合が終わった後には、選手のバスを何百人ものサポーターが取り囲み、出てきた選手たちをもみくちゃにした。風間にいたっては、パスの窓から引き出され、胴上げされ、「ヤヒロ、ヤヒロ!」の連呼を受ける。そして最後には、「ごくろうさん、ごくろうさん!」の声、さらには「明日がある、明日がある」と続いた。
「サポーター」が日本のサッカーに根づくのはJリーグ以後のことだが、そこから10数年も前にこれほどパワフルなサポーターが存在したことは、しっかりと記録されなければならない。サッカーという文化のなかで欠かすことはできないサポーターが誕生したこと、これも間違いなく、1990年代以降の日本サッカーの急成長の「礎」だった。