■「私は悲しい」欧州王者を率いる監督は嘆いた

 国立競技場のピッチを使った「公式練習」は試合前日の12月12日土曜日に行われることになっていた。だが、その前々日、日本に到着したばかりのFCポルトのトミスラフ・イビッチ監督が「ピッチの状態を見たいから、国立競技場に連れていってくれないか」と言いだした。当時私はトヨタカップの仕事をしていて、ポルトにも2週間ほど取材に行き、イビッチ監督と非常に親しくなっていたので、チームが到着した翌朝、ホテルまであいさつに行った。そのときに、そう切り出されたのである。「もちろん」と、即座に2人で国立に向かった。

「私は悲しい」

 競技場の許可を得てバックスタンド側のピッチを少し歩いてみたのだが、一歩踏み込むとゆるく足が沈み込むピッチを見て、イビッチ監督がこうつぶやいた。

「このピッチでは、私たちが準備してきたサッカーはできない」

 そして12月13日、試合の朝がやってくる。午前8時、競技場の南隣にあった明治公園には、数多くのファンが列をつくっていた。ゴール裏の自由席に入る順番待ちのファンだった。そのファンを冷たい雨が襲った。かなり激しい降りだった。そして、その雨は9時近くになると「みぞれ」交じりに変わり、そしてさらに大粒のボタ雪となった。

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