大住良之の「この世界のコーナーエリアから」第132回「サッカーの聖地」ウェンブリー物語(2)伝説のFAカップ決勝「ホワイト・ホース・ファイナル」の画像
幅30メートル、長さ600メートルの「ウェンブリー・ロード」。遠くに初代ウェンブリーのシンボルであるツインタワーが見える。(c)Y.Osumi
 サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような「超マニアックコラム」。今回のテーマは、「あこがれの場所」。

■30万人以上が集結「伝説の試合」

 イングランドのサッカーファンにとって、ウェンブリーはその最初の試合から「伝説」となった。建設当時の収容数は12万5000人。ところが、ボルトン・ワンダラーズとウェストハム・ユナイテッドのFAカップ決勝には、なんと30万人以上の人が詰めかけたのだ。当時は事前に入場券を売るというシステムではなく、入場口で現金を取って入場させる形だった。そのためコントロールがきかず、また、最後には押しかけるファンから入場料も取れず、人々は入場ゲートを破ってスタジアム内に乱入した。

 観客スタンドはすでに立錐の余地もなく、遅れて入場した人々はピッチになだれ込んだ。そのピッチもアッという間に人々で埋め尽くされた。午前11時30分に開場し、キックオフは午後3時と予定されていたが、係員がようやくゲートを閉めて入場者を断ち切ったのは午後1時45分のことだった。だが、ピッチは数万人の観客が占め、試合ができる状況ではなかった。午後3時過ぎに選手たちが入場してピッチの部分を空けるようにファンに懇願したが、効果はなかった。

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