■ピッチ上の混乱を収めた「白馬」

 そこに登場したのが騎馬警官隊だった。なかでも大柄な白馬に乗ったひとりの警官の姿が目についた。警官の名はジョージ・スコリー。ビリーという名の馬にまたがり、ピッチ上の群集の中に分け入って、彼らを次第に下がらせていったのだ。「白馬」と言っても、ビリーは実際には灰色の毛を持った馬だったが、暗い色の服装が一般的だった時代に、群集の中に分け入っていった大柄な馬は、非常に目立った。そして、スコリーがビリーをゆっくりと歩ませたため、混乱は起きず、やがて人垣の中央にサッカーのピッチが姿を現した。

 人々はラインからすぐ外、ゴールポストの脇、ゴールのすぐ裏まで密集していたが、予定から45分遅れで午後3時45分にキックオフ、ボルトン・ワンダラーズが2-0で勝った。開始早々にデイビッド・ジャックが先制点を挙げ、後半早々にスコットランド人のジャック・スミスが加点して勝負をつけた。ピッチの周囲がぎっしりとファンで囲まれていたため、ハーフタイムにも選手たちはロッカールームに戻ることができず、ピッチ上で休息を取ったという。

 後に「ホワイト・ホース・ファイナル」と呼ばれるようになるこのFAカップ決勝戦は、「ウェンブリー」の名を英国中にとどろかせ、サッカーファンのこのスタジアムに対する愛着が「解体」を免れる大きな要因にもなった。

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