大住良之の「この世界のコーナーエリアから」第131回「シルクのボールタッチ」「スタンドの大滝」(3)【1978年アルゼンチンW杯「初の南米」取材】の画像
アルゼンチン代表は次回のW杯にディフェンディングチャンピオンとして臨む。撮影:中地拓也

 サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような「超マニアックコラム」。今回は、「地球の裏側で…」。

■世界で最も風変わりなスタジアム

 翌5月29日、私は『ボンボネーラ』と呼ばれるボカ・ジュニアーズのスタジアムの記者席にいた。おそらく、世界で最も風変わりなスタジアムだろう。収容は6万人。三方を三層式で急傾斜の巨大な観客席が囲むが、東側のタッチライン沿いのスタンドだけは、タッチラインに合わせて幅が100メートル以上あるのに、奥行きは10メートル足らずという平べったい5階建てのビルで、それが記者席を含む「メインスタンド」なのである。各階の道路側には階段と通路があり、席は5列ほどだった。私の席は3階だったが、タッチラインに手が届くかと思うほど近かった。

 驚いたのは、記者席に「案内人」がいたことだった。入場口でチケットを示し、記者証を見せると、制服を着てきちんと帽子をかぶった案内人が先に立ち、3階の席まで案内してくれる。そして、白い手袋でさっと座席をぬぐい、「どうぞ」と言ってくれる。まるで劇場のようだ。「ありがとう」と言って座ると、彼はまだそこに立っている。チップが必要だったのだ!

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