■スタンドから流れ落ちる「幅70メートル」の大滝

 ポーランドは前大会(1974年大会)3位のチームで、そのときの中心選手だったMFカジミエシ・デイナやFWグジェゴシ・ラトなどが健在。さらに新進気鋭のスブグニェフ・ボニェク(当時21歳)も右サイドバックとしてプレーしていた。前半31分にラトがスピードを生かして先制したが、アルゼンチンは前半のうちにダニエル・ベルトーニのPKで追いつき、後半には落ち着いて試合を支配して、レオポルド・ルーケとベルトーニが決めて3-1で逆転勝ちした。初めて南米の地で見る南米代表のプレーは、その技術の高さ、音も立てずにボールをコントロールする、「シルク」のようなタッチに感銘を受けた。

 だが、この日最も驚いたのは、選手入場のときだった。ピッチへの選手入場口はバックスタンドの中央にあったのだが、そこから選手たちが姿を表すと、両ゴール裏のスタンドからいっせいに「紙吹雪」が投げられたのだ。いや、「紙吹雪」というより、「滝」だった。新聞紙を10センチ角ほどに引きちぎった束を、ゴール裏のサポーター全員が両手につかみ、いっせいに投げるのだ。それは、まるで落差30メートル、幅70メートルの壮大な瀑布だった。結果として、両ゴール前は芝生が隠れ、真っ白になった。選手たちはそんなことお構いなしにプレーを始めた。

「郷に入っては郷に従え」という言葉がある。冬季ということもあったのか、「ラ・ボンボネーラ」のピッチはボコボコだった。翌年のワールドカップに向け、リバープレート・クラブのスタジアムは改装中だった。そのため、この年の国際試合シリーズはすべて「ラ・ボンボネーラ」で開催された。だが紙吹雪にもピッチにも、ポーランドの選手が動揺した様子はなかった。「南米でのサッカー」を体験することがこの遠征の目的だったのだから、異様な光景でもそれを受け入れ、自分のプレーに集中するところに、欧州のサッカーの強さを見た気がした。

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