■「今大会の日本はそういう選手が出てこなかった」
今の日本代表はご存じの通り、遠藤航(リバプール)がキャプテンを務めているが、彼は周りを鼓舞したり、時には怒鳴りつけたりするタイプではない。彼以外のメンバーを見ても言うべきことを言うのは堂安律(フライブルク)と冨安くらい。その2人が自分の仕事に忙殺されてしまったら、誰も流れを変える人間がいないということになる。
森保一監督もボトムアップ型の指揮官だから、どこまでも選手を尊重し、自分から明確なタスクを提示しない。それも混乱の要因になっていたと言うしかない。
かつて代表合宿に遅刻してきた森本貴幸(アクラガス=イタリア)に苦言を呈した長谷部誠(フランクフルト)のように、強烈な統率力を持った人間がいないのであれば、圧倒的な違いを作れる個のタレントがいればまだいい。2日にオーストラリアをギリギリのところで倒したソン・フンミン(トッテナム)はまさに超越した存在感を示していた。
「よくないときですら、それすら帳消しにしてしまうクオリティ、能力があればいいという見方もできる。今大会の日本はそういう選手が出てこなかったのは事実。流れを変えられる力と超越した選手になることの両方を僕は目指すべきだと思います」
世界最高峰クラブ・アーセナルで高い意識を持ったメンバーと日々、自己研鑽をしている冨安はやはり目線が高い。今回の日本代表は「自分たちは欧州トップでやっている」という自負が選手個々にあったから、アジアで勝つことにそこまで執着できなかったのかもしれないが、熱量を出せなかったらこういう結果になるのは自明の理。2023年の快進撃で過信や緩みがなかったかと言えばそうではない。まさかの8強止まりに終わった今、冨安の発言に森保監督も選手1人1人もしっかりと向き合い、代表への取り組み方を見直すべきではないか。イラン戦完敗をその好機にしなければ意味がない。
(取材・文/元川悦子)