■卓越した統率力

 激怒したのが日本のジーコ監督だった。ゴールを代えるなら、最初からやり直しではないかと主張したのだ。公平性を考えるなら、ヨルダンの2人目が終わった時点でのゴール交代か、あるいは三都主のキックからやり直させるべきだったかもしれない。宮本は再度サレー主審のところに歩み寄り、こんどは強い口調で「日本の2人目からやり直すべきだ」と話す。しかしサレー主審は「このスコアのまま続ける」と譲らなかった。三都主がペナルティースポットに立ってキックすることを要求したが、サレー主審の決定は変わらなかった。

 ヨルダンの2人目、ラテブ・モハムド・アブダラフ・アルワダトは、驚いたことに左利きだった。右側のゴールに、立ち足を滑らせることなく、力強く決めた。そして日本は2人ずつのキックを終わって0-2と、絶体絶命のピンチに立ったのである。だがこの後、GK川口能活が神がかりの守備を見せる。相手の2人を奇跡的なセーブで止め、結局、ヨルダンは4人目から4人連続で失敗するという形で日本は準決勝へとコマを進めるのである。

 相手の4人目から「読むのをやめてボールに反応することだけを考えた」という川口もすごかった。しかし宮本の冷静な「交渉」がなければ「奇跡」は生まれなかっただろう。宮本は守備の冷静な統率でも際だったプレーヤーだったが、キャプテンとしてチームを代表するという面において、日本のサッカー史上でも卓越していた。

(3)へ続く
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