■中国語では「帽子戯法」

 帽子が回って集まった募金がどれほどのものだったかは伝わっていない。試合後、募金はシルクハットごとスティーブンソンに手渡された。「ハットトリック」の語源として、「このような偉業に帽子が贈られる習慣があった」と言われることが多いが、重要なのはシルクハットではなく、その中に入れられた募金だったのである。

 そしてこのエピソードが7年後の1865年に『チェルムスフォード・クロニクル』というエセックス州の週刊新聞で「ハット・トリック」と紹介され、以後定着したのである。

 「トリック」とは、通常、人の目をくらますためのからくりや巧妙な仕掛け、ごまかしなどを意味し、「詐欺」を意味するフランス語から英語に採り入れられた言葉だという。語源はラテン語で、「ふざける、いたずらする」を意味していたらしい。それにしても、「帽子詐欺」とは! スティーブンソンは別にごまかしをしたわけではない。正々堂々と投げて3球連続でウィケットに当てたのだが…。

 それはともかく、その後、「ハットトリック」は、サッカーだけではなく、ハンドボールでも、野球、ホッケー(フィールドホッケーとアイスホッケー)、ラクロスでも、そしてモータースポーツでまで使われるようになった。そしていまでは、スポーツを離れた日常生活でも頻繁に使われるようになっているのである。

 ちなみに、イタリア語には「トリプレッタ」という印象的な表現がある。しかし「ハットトリック」は世界的に通じる言葉であるようだ。中国語では「帽子戯法」という訳語があるが、口語では「ハットトリック」という英語で十分通じる。

(3)へ続く
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