■午前1時24分のゴール

 そこで8月のある日、バルセロナのジョアン・ラポルタ会長はセビージャのホス・デルニド会長に電話をかけた。

「ホス、おたくとの試合を水曜日ではなく前日の火曜日にしてくれないか」

「それはできない」

「なぜだ?」

「うちはその前の日曜日にホームでアトレチコ・マドリードとの試合があるんだ。あんなタフなチームと試合をしたわずか2日後に、バルセロナなどとはできないよ」

 バルセロナのシーズン開幕戦は、アウェーのアスレチック・ビルバオ戦。しかし試合日はセビージャより1日早い8月30日土曜日だった。

あっさりとふられたラポルタだったが、捨てぜりふは忘れなかった。

「わかった。それなら、火曜日に限りなく近い水曜日にしてやる」

 デルニドは本気にしなかった。しかし発表されたキックオフ時間は、0時5分だった。当時の規約では、キックオフ時刻を決める権利はホームクラブにあり、ラポルタの決定は規約違反ではなかった。

「まるで中世のような謀略だ」と、セビージャのキャプテン、パブロ・アルファロは嘆いた。

 試合は予定どおり深夜過ぎにキックオフされ、バルセロナは立ち上がりにPKで1失点を喫したが、後半のゴールで1-1の引き分けにもちこんだ。得点者はこのシーズン開幕前にパリ・サンジェルマンから移籍したばかりのロナウジーニョ。自陣からドリブルで進み、鮮やかなステップワークで2人をかわし、30メートル近いシュートをセビージャ・ゴールの左上に叩き込んだのだ。

 この非常識なキックオフでも、ノウカンプを8万200人ものファンが埋めた。ロナウジーニョのゴールが決まったのは、午前1時24分だったと記録されている。

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