■1989年の西ドイツにて

 欧州や南米では、ウイークデーの試合では午後8時や、ときに9時キックオフというのは珍しくない。仕事後のファンのための時間だが、こうしたときにはバスや路面電車など、スタジアムからその都市の中心に向かう公共交通機関は特別ダイヤをつくって対応するから、心配はいらない。

 1989年の5月にドイツ(正確には、この当時はまだ「西ドイツ」だった)のシュツットガルトでUEFAカップ決勝の第2戦、シュツットガルト対ナポリ(イタリア)を取材したことがある。2週間前、ナポリでの第1戦は2-1でナポリが勝っていた。

 シュツットガルトでの第2戦が行われたのは水曜日。キックオフは午後8時15分だった。私は市内ではなく近郊の町に宿泊していたので、試合終了後帰り着くことができるのか、少々不安だった。幸い、シュツットガルト中央駅からその町までの列車は遅くまであるのだが、中央駅まで出る公共交通機関が心配だったのだ。スタジアム最寄りの地下鉄駅の時刻表を見ると、午後10時台には2本しかない。

 だが行ってみれば、まったく問題はなかった。後半35分過ぎに、スタジアムの大きな電光掲示板にたくさんの数字が並んだ。最寄りの地下鉄駅から中央駅への「臨時時刻表」だった。それによると、終了直後からほぼ2分に1本の間隔で中央駅に向けての列車が出るという。当時のシュツットガルトのスタジアムは1974年ワールドカップのために大改装されたままの陸上競技型だったが、6万7000人の大観衆にもかかわらず、混乱なく中央駅まで行くことができた。

  1. 1
  2. 2
  3. 3