■三笘薫とのやり取り
実は、ニャブリ来訪と時を同じくして世界を体感する機会を逃してもいた。“謎の練習生”のひとりである三笘薫からの“誘い”に乗れなかったからだ。
先輩である三笘とはかつて、このグラウンドで1対1の練習をこなしていた。全体練習後、どちらからともなく自然と始まったその練習は、田邉にとって実力を上げる大きな機会となり、もちろん、三笘の技術向上にもつながった。
麻生を訪れた三笘は、田邉に「1対1やろうよ」と呼び掛けたが、田辺は「俺今怪我してるんですよ」と答えることしかできなかった。「マジか」と返して諦めた三笘の姿を見ればこそ、悔しさともったいなさを感じた。
「もし俺が治ったらやってくださったのかなと思ったんで、マジもったいなかったです」
こう振り返る田邉は、「試合に出ないことよりもそっちのほうが悔しかったです」と冗談交じりに気持ちを表現したが、それも、試合で生かすための自身の成長具合を確認したかったからに他ならない。
三笘はプレミアリーグで鮮やかなプレーを連発し、日本代表をけん引する存在にもなっている。田邉は、「あの人のことだから、すごいですよ。もう相手にならないです。俺なんかお話にならないと思います」としながらも、「それが見てみたかったです。どれだけすごいのか。もちろんフロンターレの時からやばかったですけど、そこから海外の選手と戦って、余計にどれだけすごいことになっているのか、楽しみでした」と悔やんだ。
その思いにあるのは三笘への憧憬ではなく、自身の成長を確かめたいという気持ち。むしろ、偉大な先輩と対峙して止めてやるという気概すらあるように感じられる話しぶりだった。先述したように、自分に矢印を向けていることが、この言葉からも伝わってきた。
バイエルン戦や高知戦で時間限定の復帰があるのか、それとも、まだまだ先になるか分からない。しかし、長期離脱をしても、素直に自分の気持ちを表現したうえで自分に矢印を向け続ける姿には期待しかない。川崎に復帰したタイミングがそうであるようにチャンスはいつ目の前に現れるか分からないが、そんなフイの機会を、きっとモノにするはずだ。