■歴史的一戦を初めて90分間フル視聴

 そしてラスト3分というところで劇的逆転弾が生まれる。右CK付近の位置からのFK。名手・梁が蹴ったボールはファーで待ち構えていた鎌田へ。彼の打点の高いヘッドがネットを揺らし、スタジアムには耳をつんざくほどの大歓声が響き渡った。

「あの時は赤嶺さんのマークを俺がブロックしようとしていたんで、『ニアに行ってください。僕はファーで待ってます』と言いました。リャンさんのボールがメチャクチャよかったし、ホントに信頼できる人が蹴ってくれたボールなんで押し込むだけでした。ただ、今考えると、あんなに遠い位置からヘディングを叩くことはほとんどない。何か目に見えないものに突き動かされたゴールだったのかなと思います」と殊勲の鎌田は感極まった瞬間を振り返った。

 そしてタイムアップの笛。手倉森監督が号泣し、選手たちも歓喜の雄叫びを挙げる。ゴール裏の熱狂的サポーターも“ベーガールータ・セーンダーイ~”とひと際大きな声で合唱する。これほどまでにスタジアムに一体感と結束力を感じさせたゲームは過去になかったと言っても過言ではないだろう。

 昨年末に現役引退した鎌田はつい最近、歴史的一戦を初めて90分間フル視聴したという。
「内容的には川崎がしっかりボールをつないでいたし、仙台は耐える時間が長かったけど、球際や戦う姿勢、運動量を生かして前に行く姿勢といった部分では相手を上回ったのかなと思います。

 サッカーは技術・戦術がもちろん必要だけど、闘争心とかメンタル面、そして一体感がなければ勝てない。うまい人はいくらでもいるけど、やっぱりそういう部分が何よりも大事だと思うし、僕らの思いが多くの人に伝わったことが一番、嬉しいですね。

 僕自身のサッカー人生を振り返ってもあの川崎戦が一番だったし、あの試合に勝つためにプロサッカー選手をやってきたんじゃないかと思うくらい意味がある。今回、Jリーグ30年のベストマッチに選んでもらえて、本当に有難いと思っています」

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