■攻撃のキーマンを襲った38度の熱

 ただ、僕らはコンディションが不十分で、90分走れるかどうか不安があった。仙台は2010年にJ1で残留争いしていて、その年もどこまでやれるか未知数だった。しかも相手は中村憲剛さん筆頭にタレント揃いの川崎。勝ち点1を持って帰れたら御の字だろうといった気持ちで試合に入りましたね」と鎌田は本音を吐露する。

 実際、攻撃のキーマン・関口訓充(現南葛SC)は2日前か38度の熱を出すほど体調が悪かったという。当日も早朝に悪寒を覚え、熱い風呂に入って体を温めて強引に出場。闘志を奮い立たせたうえでピッチに立った。

「等々力に着いたら物凄いベガルタコールが鳴り響いてて、『やるっきゃないな』と思いましたね」と彼は全身全霊を込めてピッチに立ったのだ。

「今、持っている力を全て出せ」「東北の人たちの希望の光になろう」という手倉森監督の指示通り、序盤から前へ前へという意識を前面に押し出した仙台。だが、20分過ぎから川崎に主導権を握られ、守勢を強いられるようになる。そして前半37分に田中佑介の一撃を食らう。前半は0-1で折り返すことになる。

 仙台が底力を見せたのはそこから。後半には予期せぬミラクルが待っていたのだ。

(取材・文/元川悦子)

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