■懐かしい「枯れた芝生」
スタジアムのピッチは、基盤の上に10センチほどの厚さで小石を敷き、その上に30センチほどの厚さで砂を敷いて(「床砂」と呼ぶ)そこに芝生が根を張るようになっている。この構造によって根がよく伸びると同時に水はけが確保されているのだ。しかし長年使っているとその砂の角がとれて微細な粒子となり、目詰まりを起こして水はけが悪くなる。
芝には「暖地型」と「寒地型」がある。わかりやすく言うと、夏は緑が美しいが、冬になると枯れてしまうのが「暖地型」で、冬にも緑を保つが、夏に暑さや渇水期が続くと枯れてしまうのが「寒地型」である。
1981年から毎年12月に東京の国立競技場で行われていた「トヨタカップ」は、長く「枯れた芝」での試合ということで出場チームから不満が出ていた。当時の国立競技場は、日本の他の競技場と同様、暖地型の芝だった。当然、冬には枯れる。一時は、緑色の色素を枯れ芝に吸収させて緑にする(わずかに緑っぽくなった)という「ハイテク」も使われたが、1989年に国立競技場が大改修され、「オーバーシーディング」という新しい方法が使われて12月のトヨタカップ時にも緑美しい芝生に生まれ変わった。
暖地型の芝をベースにするのだが、秋に寒地型の芝の種を蒔き、暖地型の芝が枯れる時期に緑美しい寒地型を育てるという方法で、この後に迎えるJリーグ時代の「芝は年間を通じて緑」という文化の重要な先駆けとなった。