大住良之の「この世界のコーナーエリアから」第105回「霧にむせぶ夜」(1)Jリーグ屈指の名門・鹿島アントラーズが見せた、さすがの準備と対応の画像
鹿島が名門たる理由は、ピッチ上の強さだけにあるのではない 撮影:中地拓也

 サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト・大住良之による、重箱の隅をつつくような、「超マニアックコラム」。今回は、白い魔物のお話。

■雲行きが怪しくなったメキシコ戦

 2020年の秋、コロナ禍で世界がまだ閉じられた状況のなか、日本サッカー協会は大きな決断をした。この年に1試合もできないことになりそうな日本代表戦を、欧州のクラブに在籍する選手だけで、欧州を舞台に開催しようというのだ。

 10月にはオランダのユトレヒトを舞台にカメルーンとコートジボワールを相手に2試合、11月にはオーストリアのグラーツにパナマとメキシコの代表を招いて2試合、計4試合を戦ったのである。この4試合の経験や、その間のチーム内のコミュニケーションが、2022年ワールドカップ・アジア最終予選勝ち抜きに、さらにはカタールの舞台でドイツとスペインを下すという快進撃につながったのは間違いない。

 その一連のシリーズの最終戦が、11月17日のメキシコ戦だった。4日前のパナマ戦からほぼ「ターンオーバー」の形で望んだ日本は、前半、勢いよく攻め込んだ。ドイツのフランクフルトで好調を続ける鎌田大地が攻撃をリードし、メキシコGKギジェルモ・オチョアの好守がなければ前半のうちに2-0でリードしていてもおかしくなかった。

 しかし後半、雲行きが怪しくなる。メキシコの動きが良くなっただけではない。スタジアムが霧に包まれはじめ、それがどんどん濃くなっていったのだ。そして日本選手の攻守がちぐはぐになり、後半18分、23分と連続失点。このころには、逆サイドのボールはほぼ見えなくなっていた。その後日本協会はボールを白からオレンジ色のものに替えたが、迷彩柄の日本の青のユニホームはどんどん見にくくなり、全身白のメキシコ選手たちだけが躍動しているように見えた。

 標高400メートルクラスの山に東西と北を囲まれた盆地の町グラーツ。おそらく急激に気温が下がったことで生まれた霧だったのだろう。北西からの冬の風に対し、山々が「衝立」のようになっている形で風が通らず、その霧はまったく去らなかった。ちなみに、日本サッカー協会が作成した試合の公式記録の「天候」欄には、「その他」と書かれている。晴れでも曇りでも雨でも雪でもなく、それ以外に書きようがなかったのだろう。

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