オランダ代表はリヌス・ミケルス、ヨハン・クライフの時代から、先進的なサッカーで知られる。だが、その底力は華やかなプレーだけに表れるのではない。たった1つのFKの裏に隠された入念な準備と胆力、そしてチーム力の物語をサッカージャーナリスト・大住良之が解き明かす。
■オランダの主役
この映像を見たオランダのコーチたちは、「これは使える」と喜んだ。だがこうしたトリックが通じるのは1回だけである。「ここ」というときに使うこととし、ワールドカップのための「引き出し」のひとつとして記録された。
ワールドカップ前に何回このFKの練習をしたのかは、フック氏は語らなかった。しかし少なくとも、アルゼンチン戦の2日前にはこのFKがトレーニングメニューに入れられたことを明かし、その映像も披露した。右と左で何回かずつ行ったようだ。トレーニングでは成功したものもあったが、ゴールにつながらないものもあった。
ルイス・ファンハール監督が率いた2022年ワールドカップのオランダ代表はしっかりとパスをつないで崩すサッカーが基本だった。エースはスペインのFCバルセロナでプレーするFWメンフィス・デパイ。9月に太もも裏を故障し、コンディションが懸念されていたが、グループリーグの第3戦から先発。ラウンド16のアメリカ戦でも先発して鮮やかな先制ゴールを決めていた。