■秘策を託された男

 ウェフホルストは1992年8月7日生まれの30歳。2018年、25歳でオランダ代表にデビューし、ワールドカップ前までに15試合、3ゴールの記録をもっていたが、主力ではなく、国際的に高い評価を受ける選手ではなかった。ブンデスリーガのボルフスブルクで活躍した後、2022年1月にプレミアリーグのバーンリーに移籍。しかし7月にはトルコのベシクタシュに貸し出されてワールドカップを迎えた。ワールドカップで26人のメンバーにはいるかどうかは、ぎりぎりのところだったらしい。オランダには、コディ・ハクポ(193センチ)、F・デヨング(188センチ)という「ターゲットマン」がいたからだ。

 ファンハール監督にとってウェフホルストはあくまで「プランB」の選手であり、この大会にはいってからもエクアドル戦、カタール戦、そしてラウンド16のアメリカ戦と終盤の交代選手として使われただけだった。そしてこの準々決勝アルゼンチン戦も、後半33分、エースのデパイに代わっての登場だった。

 だがウェフホルストにはもうひとつの隠された役割があった。それはコーチ陣が入念に準備した「トリックFK」の担い手だった。このFKは終盤、1点が必要なときにだけ使う。そのときには「プランB」に切り替わっており、当然、ウェフホルストがピッチにいる可能性が高かった。そして「3人」の中央に立ってパスを受け、シュートを決めるのに、彼ほど熟練した選手はいなかった。2年前の10月、ボルフスブルクであの鮮やかなトリックFKの主役を演じ、ゴールを決めたのは、ほかならぬウェスホルストだったからだ。

PHOTO GALLERY ■【図解】オランダがアルゼンチン相手に決めたトリックFK
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