■ルールを変えさせた男

 驚異的なスローインの「投げ主」はウィリアム・ガン、ノッツ・カウンティの選手だった。彼は身長189センチ、体重77キロと、当時としてはとてつもなく大きな男だった(19世紀の英国人男性の平均身長は167センチほどだったらしい)。素晴らしいスピードをもった右のウイングで、1880年から1993年までトップクラスで活躍したが、どちらかというとクリケットの名手、イングランド代表選手として知られ、1880年から46歳を迎える1904年までプロ選手として活躍した。強肩のアウトフィールダーとして、年間最優秀選手にも選出されている。

 さて、このガンのスローインにうんざりしたスコットランド協会が提案したのが「両手投げに限定しよう」という案だった。1882年12月の英国4協会(イングランド、スコットランド、ウェールズ、アイルランド)で決議され、翌年正式なルールとなった。ここに世にも珍しいボールの投げ方であるサッカーのスローインが誕生したのである。

 ボールは両手に均等に持たれなければならない。そして頭上から投げなければならない(頭の後方から頭上を通して投げなければならなくなったのは、1965年、東京オリンピックの翌年のことだった)。この投げ方だと、通常は30メートルが精いっぱいである。

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