大住良之の「この世界のコーナーエリアから」第102回「ワールドカップでも普通に見逃される反則とは?」(3)投げ手とルールのいたちごっこの画像
日本代表も練習に余念がないスローイン。W杯で活きてくるか 撮影:中地拓也

 サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト・大住良之による、重箱の隅をつつくような、「超マニアックコラム」。今回は、世にも珍しいサッカー独自のボールの投げ方。

■スローインの成り立ち

 さて、サッカーが始まった1863年から、スローインが現在の形でなかったのは、チコちゃんへの後藤さんの解説にあったとおりである。

 中世、村と村の間で争われた「フットボール」には、スローインなどありえなかった。途中の野原や道がすべてピッチになるのだから、タッチラインなどない。タッチがなければ当然スローインもない。スローインが登場するのは、パブリックスクールの運動場でピッチが仕切られてからだった。

 ただ、1863年に最初のルールが書かれたときには、タッチラインもゴールラインもなく、ピッチは四隅に立てられたフラッグで仕切られているだけだった。タッチラインとゴールラインが引かれるのは、1890年のことである。当時は、この(仮想の)境界線から出たボールは、どちらのチームでも、最初に拾った選手がボールを投げ込む権利を得た。そして境界線に「直角」に投げなければなかった。投げ方に制約はなく、たいていは片手投げだった。現在のラグビーの「ラインアウト」を想像すればよい。

 ちなみに当時のサッカー用語には「スローイン」という言葉はなかった。この言葉が最初にルールブックに載るのは、1891年のことである。

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