■やってきた歓喜の瞬間
そして、歓喜の瞬間はやってきた。6位浮上のためには7位のベガルタ仙台が引き分け以下の結果に終わる必要があったが、その一報が入っていたのだろう。試合終了の笛が吹かれると、山形のベンチ前では選手とスタッフが笑顔で肩を抱き合っている。スタンドを埋めたファンも沸き立ち、プレーオフ進出の権利をつかんだことをピッチ上の選手たちにも知らせた。
この様子に、こらえられない男がいた。背番号5を背負うDF野田裕喜である。
今季は開幕戦のベンチからは外れたが、第5節に交代で今季初出場を果たすと、続く第6節からは出場停止だった1試合を除いてフル出場を続けた。
大津高校時代から、地元のロアッソ熊本で特別指定選手としてJリーグの舞台に立った。高校卒業後はガンバ大阪に入ったが、U-23チームでの出場ばかりで、J1での出場歴はまだない。山形には2019年に育成型期限付き移籍で加わり、翌20年から完全移籍に移行すると、主力に定着。そんなプロ7年目の苦労人に、ようやくJ1初出場の可能性が見えてきたのだ。
ピッチに突っ伏した野田は、なかなか立つことができない。仲間に肩を抱かれながら、整列に向かう間もユニフォームで顔を覆ったままだった。