■北朝鮮でいじわるな質問

 さて、モスクワと同じような高速エスカレーターを見かけたのが、北朝鮮の首都、平壌(ピョンヤン)の地下鉄道でした(北朝鮮では地下鉄は「地下鉄道(チハチョルド)」と言います)。

 1973年に開通したもので、ソ連の地下鉄をモデルにしたので駅の構造も当然モスクワ地下鉄に似ています。路面は地下深く、エスカレーターも高速なのです。

 それから、平壌地下鉄道の特徴は駅名が「革命」とか「勝利」とか「栄光」といった抽象的な名前で、地名ではないことです(金日成競技場の前の凱旋門下の駅は「凱旋」なので分かりやすいのですが、他の駅は地上の地名とは関係ありません)。

 1985年に平壌を訪れた時に地下鉄道に案内されました。僕は、北朝鮮滞在中はいじわるな質問ばかりしていましたが(第33回「やっぱり盗聴してたんだ!」の巻)、ここでも案内人に「平壌の地下鉄はなんでこんなに深いところを走っているんですか?」と質問してみました。「防空壕として使います」という答えを期待していたのはもちろんですが、案内人の答えは「市内を流れる大河、大同江(テドンガン)の下に線路を通さなければならないからです」というものでした。

 そして、モスクワの地下鉄と同じように轟音を立てて高速で動くエスカレーターに乗る時にも、「こんなに速いエスカレーターでは、お年寄りなどは乗るのが大変なのではないですか? ケガをする人とかいませんか?」と質問してみました。

 すると、案内人はこう答えてくれました。

「共和国の人民はみな運動神経が良いのです」

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