■ワールドカップの重圧
過去10大会、30回のPK戦で、キッカーは延べ279人になる。そのうち失敗に終わったのは、83人である。ワールドカップで複数回PK戦でキックを成功した選手は20人以上いるが、複数回失敗した選手はいない。それでも281回中83回の失敗は少なくない。
通常、PKの成功率は80%と言われている。Jリーグ(J2、J3は含まず)では、スタートの1993年から今月18日の試合までに8607試合が行われたが、そこで生まれた1817本のPKで得点となったのは1430回。8割弱である。それと比較すると、ワールドカップのPK戦成功率は7割強に過ぎず、「有意」に低い。
「失敗の元祖」シュティーリケを筆頭に、「失敗者リスト」には、ソクラテス(ブラジル)、ミシェル・プラティニ(フランス)、ドラガン・ストイコビッチ(ユーゴスラビア)、ディエゴ・マラドーナ(アルゼンチン)、フランコ・バレージ(イタリア)、ロベルト・バッッジオ(イタリア)、アンドレイ・シェフチェンコ(ウクライナ)、スティーブン・ジェラード(イングランド)など、そうそうたる顔ぶれが並んでいる。
「ワールドカップのPK失敗はスーパースターの証拠」とまでは言わないが(そう言われても、駒野友一の心の傷は癒えないだろう)、ワールドカップのPK戦には、「何者か」が潜んでいるに違いない。だいたい、PK戦で誰も失敗しなかったら、永遠に終わらず、選手たちは次の試合に備えて休むこともできないし、観客は終電がなくなって困ってしまう。「誰かが失敗しないといけない」のが、PK戦なのである。
PK戦を最も早く終わらせたかったら、一方のチームだけが次々と失敗すればいい。それでも両チーム3人ずつはけらなければならない。こうした例が、2017年にロシアで行われたFIFAコンフェデレーションズカップの準決勝で起こった。ポルトガルとチリの対戦は0-0で終わり、PK戦に、ここでチリのGKクラウディオ・ブラボが大活躍、リカルド・クアレスマ、ジョアン・モウチーニョ、そしてナニのキックをことごとくセーブしたのだ。先攻のチリは3人連続で成功しており、PK戦は6人で終わった。
一方、PK戦のキック数世界記録がことし3月に塗り替えられた。それまでの記録は、2005年にナミビアでつくられた「48本」だったのだが、イングランドの10部に当たるノーザンリーグ2部のカップ戦で、3-3の引き分けの後、なんと54本ものキックが行われた。うち失敗は5本。49人が成功し、ワシントンFCがベドリントン・テリアーズFCに25対24で勝った。