大住良之の「この世界のコーナーエリアから」第95回「増える一方の『ベンチスタート』」(3)イングランドのチームが敗戦取り消しのために使った「奥の手」の画像
2014年ワールドカップのチームベンチは、日本の旭硝子が製作し、非常に評判が良かった。(c)Y.Osumi

 サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト・大住良之による重箱の隅をつつくような「超マニアックコラム」。今回は「チーム役員、交代要員および交代して退いた競技者の座席」―。

■スタジアムごとに異なる造り

 サッカーで「ダグアウト」というと、私がいつも思い出すのはバルセロナのカンプノウ・スタジアムだ。長い間、このスタジアムのチームベンチは、メインスタンド側のピッチのすぐ横にあり、座席は横に長く一列になっていた。屋根などなかった。ピッチの横に細長い溝が掘られ、監督も控え選手もそこに椅子を置いて座るという形だった。椅子に座ると、ちょうど肩のあたりがピッチの高さになるのである。

 当然のことながら、私はカンプノウのピッチに立ってプレーしたことがないが、もし試合中にピッチに立って見ることができたら、メインスタンドの観客席の前に数十の「さらし首」が並んでいるように見えたに違いない。想像するとおかしい。この「ダグアウト」はいまはなく、カンプノウでも観客席に組み込まれる形の浅い「ダグアウト」になっている。

 東京の西が丘サッカー場(現在の呼称は味の素フィールド西が丘)は、完成当時、「ダグアウト」式だった。しかもあろうことか、ハーフウェーラインの延長線上に、メインスタンドとバックスタンド側に分かれて、1チーム分ずつ組み込まれていた。野球場の「一塁側と三塁側」のようにチームベンチが離れていたのだ。ホームはメインスタンド、すなわち西側のスタンドだったからよかったものの、アウェーチームは東側のスタンドだったので、午後の試合には完全逆光となり、難儀しただろう。

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