■「少し感情的になってしまいました」

 喜ぶ仲間に抱きつかれてもまだ空を見ていた彼は、乾貴士松岡大起が加わって歓喜の輪が大きくなる頃には両手で目もとから口にかけて覆い、俯いていた。

 明らかに、単なる1ゴールではなかった。喜びだけでなく、安堵や感謝のような気持ちが溢れ出し、感極まっているようだった。

 カルリーニョス自身も試合後「少し感情的になってしまいました」とこの場面を振り返っている。

 2020年から清水でプレーしている彼は、1年目こそリーグ戦2桁ゴールを記録したものの、昨シーズンは度重なる怪我に苦しみ、今シーズンも右膝の怪我の影響で出遅れた。今年のリーグ戦初出場は5月3日。この日までリーグ戦11試合(うちスタメン6試合)の出場にとどまりゴールは無かった。

先制ゴールを決めるカルリーニョス・ジュニオ FC東京vs清水エスパルス(20220807)撮影/原壮史

 今年1月には母が他界。5月8日(母の日)にはSNSに感謝と愛情を綴っていた。その中には『会いたいよ。今日、電話できればいいのに。』という言葉と共に『あなたが私を誇らしく思ってくれていることを願っています』という文もあった。

 プロサッカー選手としても一人の人間としても苦しい時期を過ごしたカルリーニョスにとって、このゴールは単なる1ゴールではなかった。空をじっと見上げていた彼を、母も誇らしく見つめていただろう。

 

PHOTO GALLERY FC東京vs清水エスパルス(20220807)
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