■守備陣を助けた魂の追い回し

 「当たり前のことだが、試合の終盤から互いになかなかプレッシャーに行けなくなるなかで、ペナルティーエリアまで引くことがいやだった。普段のポジションがどこであれ、前に走れる選手を置きたかった。できるだけ相手ゴールに近いところでボールを奪いたい、サッカーをしたいという、このチームの基本をぶれさせたくかった」

 試合後、城福監督はそう説明した。その言葉のとおり、新しい2トップ、なかでも34歳のベテラン奈良輪の魂のこもった追い回しは、120分間プレーし続けた東京VのDFラインの4人を大きく助けた。

 そして延長後半9分、東京Vに劇的な決勝点が生まれる。東京Vの左CK(それも奈良輪の果敢な動きから生まれたものだった)。磐田は10人のフィールドプレーヤーがすべて自陣ペナルティーエリア内に戻り、ゴール前には9人の選手がスキ間なく立って「ゾーン」で守りを固める。東京Vも6人の選手をペナルティーエリアに送り込む。キッカーはMF宮本優。ゴール正面に送られたボールは磐田の選手がヘディングしてクリアするが、そのボールをペナルティーエリア外で待ち構えていた奈良輪が拾う。

 ワンバウンドしたボールを奈良輪は胸でコントロール、落ちて再び上がるところを右足で鋭く振り抜いた。ボールはゴール前に密集する磐田の水色のユニホームの間を奇跡のようにすり抜け、ゴール左に突き刺さった。

 東京Vの話ばかり書いてしまった。しかし磐田のプレーが悪かったわけではない。磐田もまた、多くのケガ人とともにコロナ陽性者も出ていた。3日前に同じ味の素スタジアムでFC東京と対戦し、前半の0-2の劣勢をひっくり返すべく、後半は全員が鬼のように走り、戦った。その疲労から回復せず、この試合には帯同できなかったメンバーもいた。

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