■距離を一気に縮めたひとつの質問
さて、フィル・ボールからはレアル・マドリードの歴史や独裁者フランコ将軍との関係などの話を聞きましたが、まあどこの本にも書いてあるような話ばかり。話はなかなか盛り上がりませんでした。まあ、互いに初対面でしたし、あちらとしては、いきなりやって来た日本人がどの程度フットボールのことを知っているのかも分からないので、話しづらかったのかもしれません。
そこで、話が途切れた瞬間に「で、フィルはイングランドのどこの出身なの?」と尋ねてみたのです。
「グリムスビーという小さな街だよ。知らないと思うけど」とフィル。イングランド東部、リンカーンシャー州の人口8万人ほどの、確かに小さな街でした。
ところが、僕にはその街の名前に聞き覚えがあったのです。
1971年8月10日に、遠征中の日本代表がグリムスビー・タウンFCと試合をして2対7で敗れたのです。当時は、アーセナルやボルシア・メンヘングラッドバッハのような有名クラブが来日することはありましたが、日本がヨーロッパに遠征しても各国の代表チームはもちろん、強豪クラブとはほとんど試合ができず、下位リーグのクラブやアマチュアチームなどとの対戦がほとんどだったのです。
「いや、グリムスビー知ってるよ。昔、日本のナショナルチームが試合をしたはずだけど、知ってる?」と僕が逆質問すると、フィルの表情が変わりました。
「もちろんさ、小学生だった僕はその試合をスタジアムで見たんだよ。4部リーグだったうちのチームが、外国の代表と試合をしたんだからよ~く覚えてる」
こうして、共通の話題で盛り上がったおかげで、その後のフィル・ボールとのインタビューは大変に意義深いものになりました。20年前の試合の話で、お互いに古くからのサッカー・フリークであることを確認できたというわけです。